大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(あ)1240号 決定 1981年1月27日

本店所在地

大阪市東淀川区小松一丁目一五番一八号

東洋製鉄株式会社

右代表者

代表取締役 音頭直次

本籍

富山県砺波市鷹栖五〇八番地

住居

大阪府吹田市千里山西五丁目三四番六号

会社役員

音頭直次

大正一二年三月二五日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、昭和五五年六月二六日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから各上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人大槻龍馬の上告趣意は、憲法三一条、三九条違反をいう点を含め、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮崎梧一)

○昭和五五年(あ)第一二四〇号

被告人 東洋製鉄株式会社

同 音頭直次

弁護人大槻龍馬の上告趣意(昭和五五年八月二七日付)

原判決は、憲法三一条・三九条に違反し、判決に影響を及ぼすべき法令の違反及び重大な事実の誤認があり、破棄しなければ著しく正義に反する。

一、被告会社は、かねて所轄東淀川税務署長より青色申告の承認を受けていたものであるが、昭和五〇年二月一八日、同税務署長より法人税法一二七条一項三号に該当するものとして、昭和四六年五月一日以降の事業年度の青色申告の承認を取り消されており、そのため次のように青色特典を喪失した。

訴因第一関係

減価償却費 八、九三三、九八四円

価格変動準備金繰入 六九三、〇〇〇円

合計 九、六二六、九八四円

訴因第二関係

減価償却費 二五、〇八〇、七六一円

雑収入 △ 八三七、九六五円

雑損失 △ 四六二、九八六円

価格変動準備金繰入 二、六四〇、〇〇〇円

価格変動準備金戻入 △ 一、九八〇、〇〇〇円

公害防止準備金繰入 三、九六〇、〇〇〇円

合計 二八、三九九、八一〇円

而して本件起訴は、右の喪失した青色特典分はいわゆる犯則所得に含むとの見解をとるものである。

二、弁護人は第一審の弁論において右の見解に対し次のとおり反論主張した。

1 喪失した青色特典分であるいわゆる取消益が犯則所得となるか否かの点については、既に昭和四九年九月二〇日の最高裁第二小法廷判決に次いで、同年一〇月二二日の最高裁第三小法廷判決においてもこれを支持するいわゆる積極説がとられ、既に最高裁の態度は確定したものとみられるので検察官の主張はこれに根拠をおかれるものと思料される。

しかしながら、当弁護人は右の最高裁の各判決については以下に述べるようにどうしても納得し難く、消極説を妥当と考える次第である。

2 さて前記昭和四九年九月二〇日最高裁第二小法廷判決は、

「おもうに青色申告承認の制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであって、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記帳し、かつ、これを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、青色申告書を提出した納税者に対しては、推計課税を認めないなどの納税手続上の特典及び各種準備金、繰越欠損金の損金算入などの所得計算上の特典を与えるものである。ところで、被告人村松愛作が被告会社マルアイの業務に関してなしたように、法人の代表者が、その法人の法人税を免れる目的で、現金売上の一部除外、簿外預金の蓄積、簿外利息の取得及び棚卸除外などによりその帳簿書類に取引の一部を隠ぺいし又は仮装して記載するなどして、所得を過少に申告する逋脱行為は、青色申告承認の制度とは根本的に相容れないものであるから、ある事業年度の法人税額について逋脱行為をする以上、当該事業年度の確定申告にあたり右承認を受けたものとしての税法上の特典を享受する余地はないのであり、しかも逋脱行為の結果として後に青色申告の承認を取り消されるであろうことは行為時において当然認識できることなのである。したがって、青色申告の承認を受けた法人の代表者がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をし、その後その事業年度にさかのぼってその承認を取り消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税法七四条一項二号に規定する法人税額から申告にかかる法人税額を差し引いた額であると解すべきである。」

と判示している。

3 ところで法人税法一二七条一項は一号ないし四号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる事業年度までさかのぼってその承認を取り消すことができる旨規定し、右のうち三号は「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるときは、当該事業年度までさかのぼる」旨規定している。

従ってかりに法人税法一二七条一項三号に該当するような事実があっても所轄税務署長が青色申告の承認を取り消すかどうかはいわゆる裁量処分に属するものであって、覊束処分に属するものでないから、例えば青色申告の承認を受けているA・B両名が、いずれも後に青色申告の承認を取り消されるのであろうことを認識しながらそれぞれある事業年度の法人税額について逋脱行為をなした場合、Aについては青色申告の承認が取り消され、Bについては青色申告の承認が取り消されないようなことは当然にあり得ることであり、事実かような事例も多々存するのである。

そうして青色申告の承認を取り消されたAについては、さかのぼってその税法上の特典を享受することができなくなり、右特典が取り消されたことによって生ずる所得が、あらたに追加課税の対象として加えられるのに対し、取り消されないBについては、右所得についてあらたに追加課税されることはないのである。

しかも前記最高裁判決は、右設例の場合のAについては特典分を取り消されたことによって生ずる所得も刑罰の対象となる逋脱所得を構成し、追加税額分が逋脱税額となるというのである。

それでは右のBについては、もしかりに青色申告の承認による特典を取り消されたらそれによって生ずるであろうところの所得についてはもともと犯罪を構成しないというのであろうか。犯罪は一応構成するが、所轄税務署長が青色申告の承認を取り消さないことによって犯罪の成立が阻却されるとでもいうのであろうか。いずれにしてもAとの関係において権衡を失しない議論が見出せない。

4 翻って法人税法一五九条は、偽りその他不正の行為により法人税を免れることを犯罪の構成要件とするいわゆる法人税逋脱罪を規定しているが、それは、国家の租税債権に対する侵害であり、法人税の確定申告時もしくは納期において右逋脱罪が既遂となるものと解されている。従って、青色申告承認の取消がなされるのは、時間的には逋脱罪が既遂となった以後のことになるわけである。一旦成立した犯罪について、その後発生した事実によって侵害法益が拡張されるような場合(例えば、殺人未遂や傷害がその後被害者の死亡の事実により殺人や傷害致死となる)は、その間に相当因果関係の存在を必要とするであろう。

ところが、行為者以外の第三者である所轄税務署長が裁量によってなした青色申告の承認を取り消す旨の行政処分によって一旦成立した犯罪について侵害法益が拡張されるというようなことは刑罰不遡及の原則に反し犯罪の本質からみても容認されることではなく、右行政処分はあくまで課税上の処分であり、犯則所得でないものを犯則所得に変化させるような効力を有するものとは到底考えられない。

5 昭和五二年六月三日付の朝日新聞は、「八三億も申告もれ、新日鉄、過去四年の所得」という見出しで、

「約八三億円の申告もれの中身について東京国税局は詳細を明らかにしていないが、『企業側との税金処理上の見解の違いによるものがかなりあり、全部が利益隠しとはいえない』としている。しかし『不正所得』と認定した分が含まれていることは認めており、過少申告加算税・重加算税を含め三〇億円近い追徴課税を行った」などと報じているが、同社の昭和五三年三月三一日現在の貸借対照表(写別添)には、青色申告の特典である

価格変動準備金 二六、八三七、〇〇〇、〇〇〇円

公害防止準備金 二五、〇七三、六〇四、六九三円

などが計上されているところから、同社は青色申告の承認を取り消されていないことがうかがわれ、青色申告の承認取消は、法文上のみならず、現実に裁量処分として運用されていることが確認できるのである。

6 上述のとおり前記最高裁判決の結論には承服し難いところがあり、青色申告の承認取消によってその特典を喪失せしめその分につき追加の課税処分をなすことまでは肯認できても、犯罪の本質を離れて、刑罰権をもってその分野にまで介入するようなことは、いわゆる概括的認識説の横暴であり、行き過ぎであるといわねばならない。

以上の理由により本件における前記青色特典の否認分については逋脱所得に含まれるべきものではなく、所轄税務署長もこの分については、重加算税を賦課していないこともその裏付となるものと考える。

三、第一審判決は、弁護人の右主張に対し

「弁護人は、青色申告の承認の取消による青色特典の否認分については、犯則所得に含まれるべきものではない旨るる主張するが、当裁判所の見解も、昭和四九年九月二〇日最高裁第二小法廷判決(集二八-六-二九一、なお昭和四九年一〇月二二日最高裁第三小法廷、昭和五〇年二月二〇日同第一小法廷各判決も同見解)と同様であり、青色申告の承認を受けた法人の代表者がある事業年度において法人税を免れるため逋脱行為をし、その後その事業年度にさかのぼってその承認を取消された場合におけるその事業年度の逋脱税額は、青色申告の承認がないものとして計算した法人税法七四条一項二号に規定する法人税額(すなわち、青色特典の否認分も犯則所得に含めて計算した法人税額)から申告にかかる法人税額を差し引いた額であると解するので、弁護人の主張は採用できない。」

としてこれを排斥した。

四、そこで弁護人は原審において、第一審の右の判断は、法人税法一五九条一項、一二七条一項の解釈適用ならびに犯罪成立の時点における罪体の把握を誤り、よって判決に影響を及ぼすべき事実誤認をなしたものであるとの控訴趣意のもとに次のとおりその理由を述べた。

1 原判決は、判示第一の事実については、昭和四七年六月二七日をもって、判示第二の事実については、昭和四九年六月二八日をもってそれぞれ犯罪が既遂に達したものと認定していながら、右犯罪の中には基幹的逋脱行為による本来の犯則所得のほかに、前記のいわゆる取消益をも犯則所得としてこれを包含させているのである。

2 ところが被告法人は、前記のごとく右いずれの犯時よりも後にあたる昭和五〇年二月一八日に至って所轄東淀川税務署長より、法人税法一二七条一項三号に該当するものとして、昭和四六年五月一日までさかのぼって青色申告の承認を取消されたので、この時点において、はじめてさかのぼって取消益が発生し、右取消益を課税対象とする租税債務をあらたに負担するに至ったのである。

3 いわゆる脱税犯は、租税債権に対する侵害行為であるから、原判示の各犯時においては、いずれもいわゆる取消益は未だ発生せず、右取消益を課税の対象とする租税債権も亦発生していないのであるから、この分の租税債権に対する侵害行為はあり得ないことで、いわゆる脱税犯が成立する余地のないものと解すべきである。

4 まして法人税法一二七条一項は、青色申告承認の取消は、所轄税務署長の裁量処分に属することを明記しているので、青色申告の承認を受けている者が、法人税法一二七条一項各号該当の行為をなしたとしても、或る者は取消処分を受け、或る者は取消されずにすまされるようなことは、当然にあり得ることであるが、このような場合、両者の行為について犯罪の成否が分かれるようなことは到底許されないことである。

ところが原判決の趣旨に従えば、前者についてはいわゆる取消益が犯則所得となるが、後者についてはかりに訴追がなされても基幹的逋脱行為による本来の犯則所得だけが有罪の対象とされるだけで取消を仮定して、いわゆる取消益までも有罪の対象とすることはできないものと思われる。

5 それでは原判決は法人税法一二七条一項に定める青色申告承認の取消処分は、いわゆる取消益を犯則所得と認定するための訴訟条件という考え方であろうか。

思うに右取消処分は同条同項一号ないし三号に該当する事実が発見された場合、当該時点において所轄税務署長がその内容の詳細、取消による影響等を広く勘案して行政上の綜合的配慮のもとに、取消すべきか否かを決定するものであって、その結果発生する取消益を、将来刑事手続における犯則所得として処罰を求める目的でなす処分でないことは明らかであるから訴訟条件ということもできまい。

青色申告の承認がさかのぼって取り消されるということは行政処分としては異例のものであるが、これはいわゆる取消益をさかのぼって犯則所得とするためのものではなく、通常の行政処分のごとく将来に向かって取り消すことにすれば過去の事業年度分については青色としての煩瑣な更正手続をとらなければならないことになるから、青色申告の承認を受け特典を与えられていながら脱税を図るような者に対しては、さかのぼって取消すことによって過去の事業年度分についても白色としての簡略な更正手続をとり得ることとし、これに附随してこの間に与えられていた特典をもさかのぼって喪失せしめるという行政上の懲罰的意義をも有するものと解せられる。

従って、この取消の時点において喪失した特典即ち取消益が課税の対象となり租税債権が発生するのであるから、それがさかのぼってなされるとしても、脱税の実行行為時においては右の取消益に対する租税債権は未だ存在せず、将来発生する可能性が存するだけで必然的に発生すべき性質のものでもなく、刑罰が介入できる事柄ではない。

従っていわゆる取消益に関しては、たとえ将来取消されることもあり得ると思いながら基幹的逋脱行為をなしたとしても行為時において法人税法一五九条一項の構成要件を充足するものとはならない。

然るに原判決は、各犯時においていわゆる取消益を犯則所得と認定しているのであるが、これは各犯行時において存在しない取消益を存在したものと擬制しているものであって、このように罪体の存在を擬制することは到底許さるべきものではない。

6 以上の理由により、原判決は、法人税法一五九条一項・一二七条一項の解釈適用ならびに、犯罪成立の時点における罪体の把握を誤り、ひいては本来犯則所得に含まれない青色申告承認取消による取消益を誤って犯則所得と認定したものであって、右事実の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

五、原判決は右控訴理由のうち具体的主張を省き、

「論旨は、要するに、原判決は青色申告の承認の取消による青色特典の否認分を犯則所得に含めているが、右は法人税法一五九条一項・一二七条一項の解釈適用を誤り、ひいては犯則所得金額を誤認したものであり、これらが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない、というのである。」

と抽象的に要約したうえ、

「そこで調査するに、原判決が争点に対する判断の二で説示するところはまことに適切であり、原判決には法人税法一五九条一項・一二七条一項の解釈適用を誤ったかどはなく、したがって右法令の解釈適用の誤りの存在を前提とする事実誤認の所論も採用できない。論旨はいずれも理由がない。」

として控訴理由を斥けた。

しかしながら右の原判決は、実質的には控訴趣意に対する判断の回避ともいうべきものであるところ、要するに憲法三一条・三九条に違反し、法人税法一五九条一項・一二七条一項の解釈適用を誤り、ひいては本来犯則所得に含まれない青色申告承認取消による取消益を誤って犯則所得と認定した違法がありこれを破棄しなければ著しく正義に反するものである。

以下その理由を述べる。

六、1 青色申告の制度は、一定の帳簿の記録を備えた納税者に対しては、青色の申告用紙を使用する申告を認め、この青色申告者に対しては、その帳簿記載を調査し、これに誤りがある場合に限り更正することにし、かつ推計課税を認めないこと、更にこの青色申告を助長するために、所得計算上必要経費に算入できる引当金準備金・特別償却金等を認め、青色申告でない申告、いわゆる白色申告をする者に対してはこれを認めないこととするシヤウプ勧告によって創設されたものである。

而して法人税法一二七条一項による青色申告承認の取消は、所轄税務署長による裁量処分に属し、この処分には、他の行政処分の場合と異り特に遡及効を認められているが、その理由は、青色申告者が仮装隠蔽行為をなした場合にはその更正にあたって前記のような煩瑣な青色申告者に対する更正の特例に従うことができないので、遡ってその承認を取消すことによって白色申告に引き戻し、簡略な白色申告者に対する更正手続で処理できるよう配慮したことに存する。

而して右取消処分によって青色申告者は単に前記青色申告者に対する特典のすべてを遡って喪失するばかりでなく、過去において青色申告者の義務としてなした帳簿書類の整理保存等の負担行為は全く無に帰してしまうのであるのであるから、その処分は懲罰的内容をも包含しており行政上の処分としての範囲で十分に目的を達しているのである。

従ってその処分の効力は特別の立法措置を講じないかぎり罪体を遡及して拡張したり、既遂罪の構成要件に予備未遂などをも含めたりするなど刑事の実体法や手続法の規定にまで影響を及ぼすことはあり得ないのである。

青色申告承認の取消が裁量処分であって、覊束処分でないことは同じ取消事由がありながら右処分を受けた者と受けない者との間に著しい不公平があるばかりでなく、取消を受けた者の特典喪失分がいわゆる犯則所得と認められることになればその不公平は一層著しいことになる。

2 法人税法一五九条一項は偽りその他不正の行為により各所定の法人税の額につき法人税を免れたことをもって犯罪の構成要件とするものである。

而して第一審判決は、訴因第一につき昭和四七年六月二七日、訴因第二につき同四九年六月二八日をもってそれぞれ犯罪成立の時期としているのである。

ところで、右各犯罪成立の時点では、法人税の額の中には、青色申告承認取消による特典喪失分は存在していないので、この分に対する租税債権に対する侵害の余地はないのである。

なるほど後日青色申告の承認を取消されるような行為については、多くは未必の故意の存在が認められ、その危険性は十分に看取し得るところではあるが、法人税法一五九条一項は犯罪の既遂だけを処罰の対象とするものであって予備罪や未遂罪の処罰を規定しているものではないから右法条の解釈によれば、犯罪の既遂の時点とされている納期の時点においては存在せず、その後に発生したいわゆる取消益を犯則所得として取扱うことは許されない。

前記昭和四九年九月二〇日の最高裁第二小法廷判決は、「法人の代表者が(中略)…行為時において当然認識できることである」という前提が存すれば「青色申告の承認を受けた法人の(中略)…法人税額を差引いた額であると解すべきである。」という後段の結論が必然的帰結となるがごとく解しているが、その論理には飛躍があり前述の理由よりして誤ったものというべく、行為の危険性に重点をおくあまり立法の不備を解釈によって補わんとするものである。

即ち、憲法三一条に違反して法人税法一五九条一項が既遂罪のみの規定であるのに予備罪・未遂罪をも含むと拡張解釈してこれを適用し、憲法三九条に違反して、法人税法一二七条一項が規定する青色申告承認取消処分の遡及効は単に課税上のものであるのに刑事手続にもその効力が及ぶものと解釈してこれを適用しているのである。

而して本件における第一審判決及びこれを是認した原判決は前記最高裁判決の趣旨を踏襲するものである。

3 この点については間接税関係ではすでに立法上次のような配慮がなされているのである。

即ち物品税法四四条一項一号は、「偽りその他不正の行為により物品税を免れ、又は免れようとした者。」酒税法五五条一項一号は「偽りその他不正の行為によって酒税を免れ、又は免れようとした者。」入場税法二五条一項一号は「偽りその他不正の行為によって入場税を免かれ、又は免かれようとした者。」印紙税法二二条一項一号は「偽りその他不正の行為により印紙税を免れ、又は免れようとした者。」関税法一〇九条二項は、「前項の罪を犯す目的をもってその予備をした者、又は同項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者についても同項の例による。」同法一一〇条三項は「前二項の罪を犯す目的をもってその予備をした者、又はこれらの項の犯罪の実行に着手しこれを遂げない者についてもこれらの項の例による」同法一一一条二項は「前項の罪を犯す目的をもってその予備をした者又は同項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者にについても同項の例による。」とそれぞれ規定を設けているのである。

法人税法一五九条一項の規定にはかかる内容のものは存しないのであるから原判決のような拡張解釈は許されない。

4 被告人音頭直次は、五七才の今日まで前科前歴は全くなく真剣に人生を生き抜いて来た誠実そのものともいうべき実業家であって小なりと雖も従業員約一〇〇名を抱える被告会社の代表取締役として事業の社会性を認識しその自覚のもとに日夜真摯に事業と取組んでいるものであり、本件不正行為の内容は棚卸除外・売上の繰延等、近い将来必ず被告会社の所得に変化計上される性質のものばかりで他の逋脱事犯のように所得を終始根底から秘匿するような悪質なものではないため、青色申告承認取消益が犯則所得にあたるとの主張に対しては一審以来裁判所の判断に深い関心を抱き、適正にして懇切な判断を期待していたものであるが、第二審の判旨がその期待に反してあまりにも簡略で実質的な判断を回避しているのを見てどうしても納得できず本件上告申立に及んだのである。

以上の理由により原判決を破棄しさらに相当の御裁判を仰ぐ次第である。

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